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岐阜地方裁判所 昭和44年(ワ)356号 判決

原告

山田繁義

被告

日本通運株式会社

ほか二名

主文

一、被告共同輸送株式会社、同大野秀穂は原告に対し各自金七、六八二、四〇〇円およびこれに対する昭和四一年一〇月六日より支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告の被告共同輸送株式会社、同大野秀穂に対するその余の請求を棄却する。

三、原告の被告日本通運株式会社に対する請求を棄却する。

四、訴訟費用中、原告と被告共同輸送株式会社、同大野秀穂との間に生じた費用はこれを五分しその一を原告のその余を被告らの負担とし、原告と、被告日本通運株式会社との間に生じた費用は原告の負担とする。

五、この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

(当事者の求める裁判)

原告は「被告らは原告に対し、各自金一〇、九〇七、二〇〇円及びこれに対する昭和四一年一〇月六日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、

被告らは「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求めた。

(請求原因)

一、(事故の発生)

(一)  とき、昭和四一年一〇月五日午前二時一〇分ごろ

(二)  ところ、滋賀県彦根市南川瀬町七二四の一番地付近路上(国道八号線)

(三)  加害車、被告大野秀穂運転の普通貨物自動車

(四)  態様、被告大野秀穂は原告を助手席に同乗させて加害車を運転し前記場所を時速約六〇キロメートルで進行中、前方左側に駐車中の普通貨物自動車に自車左前部付近を衝突させて道路右側の田圃に転落させその結果原告に左大腿挫滅、右大腿骨複雑骨折の傷害を負わせた。

二、(被告共同輸送株式会社、同大野秀雄の責任)

被告共同輸送株式会社(以下被告共同輸送という、もつとも事故当時は新聞共同輸送株式会社であつたが昭和四三年五月二四日共同輸送株式会社と商号変更登記)は本件事故当時、被告大野秀穂(以下被告大野という。)の使用者(同被告が被告共同輸送の代表者となつたのは、昭和四四年一月一三日)で本件加害車を所有し、貨物運送業を営んでいたものであるところ、本件事故は被告大野が被告共同輸送の貨物運送業務に従事中、同人のいわゆる居眠り運転によつて発生したものである。しかして、右運送は深更に及んだのであるから、運転者としては事前に充分な休養をとり過労運転をさけるのはもちろん、万一過労のため眠気を覚え前方注視が困難な場合は直ちに運転を中止し事故の発生を未然に防止する注意義務があるのにこれを怠りそのまゝ運転した過失がある。そこで被告共同輸送は運行供用者として、また被告大野の使用者として自賠法三条または民法七一五条により、被告大野は民法七〇九条によりそれぞれ本件事故による損害を賠償する義務がある。

三、(被告日本通運株式会社の責任)

(一)  被告日本通運株式会社(以下被告日通という。)は訴外丸岐青果出荷組合(以下訴外丸岐組合という。)と継続的青果物運送契約を締結していた。

昭和四一年一〇月四日被告日通は訴外丸岐組合が大阪中央青果市場へ出荷する大根約一一・五屯を運搬しその際トラツク二台を使用したが、うち一台は自社所有車で他の一台が被告共同輸送から運転者つきで傭車した本件加害車であつた。

原告が本件加害車に同乗していたのは当時訴外丸岐組合から青果物を大阪中央青果市場へ出荷するに際しては、組合員が交替で被告日通(または同社が傭車した)の自動車に、一台につき一名宛の割で同乗し、市場での荷渡しや陳列等にあたることになつていて、本件事故当日は原告がこの役目に就いていたからである。本件事故は大阪からの帰途発生したものであるが組合員が大阪まで同乗することによつて被告日通にも積載荷降し要員の配置を節約する便宜をあたえていたことからすると、市場から直ちにひきかえそうとする組合員を岐阜市内の自宅まで送り届けることも運送契約の内容となつていたというべきである。

(二)  被告日通が本件加害車に対し運行支配権を行使し、かつ、運行利益を享受していたことは次の事実によつて明らかである。

(1) 事故当日、本件加害車は訴外丸岐組合の大根しか運搬しておらず、他からの運送注文品を全く混載していなかつた。

(2) 出荷大根輸送契約について注文者である訴外丸岐組合は被告共同輸送と何等の契約関係になく、被告共同輸送は被告日通の履行代行者であつて被告日通からいえば、本件運行はまさに自己の営業体の延長である。

(3) 被告日通は自社の能力を越える注文に対し、これを断わるとか、他社を紹介することなどせず常時一〇社位と連携を保ちながら必要のつど、反復累行的に下請させていたが、被告共同輸送も被告日通と常時連携を保つていた運送業者の一である。こうすることによつて被告日通は注文量の変動に効率的に対処し、最少の規模で最大の効果をあげていた。本件の場合でも単に被告日通の窓口を経由するだけで運送賃の一〇パーセントを収めていた。

(4) 被告共同輸送は大根の運搬に際しては、被告日通から車種を限定され、集荷地点、時刻を指示され、その指示に従つて運送業務に従事していた。

よつて被告日通は運行供用者としてまた被告大野の雇傭主として自賠法三条または民法七一五条により本件事故による損害を賠償する義務がある。

四、(損害)

(一)  逸失利益

原告は本件受傷当時四五才の身体強健な男子であつたが、右事故によつて労働能力を全く喪失した、即ち、原告の左下肢は大腿部の上部三分の一を残し、それ以上を切断し義足をつけ右下肢には金属棒を入れて殆んど屈曲不能で歩行も極めて困難である。(自賠法上の後遺症査定でも一級とされている。)若し本件事故による負傷がなければ六三才に至るまでの一八年間なお稼働しえた筈であり、この場合の年間収入予想は控え目にみても以下述べる額を下まわることはない。

(1) 日雇いとしての収入

原告は昭和三七年ごろから後記農業養鶏のかたわら訴外安田板金こと安田仁一方へトタン工事の手伝い人夫として継続的に雇われていたが本件事故前一ケ年間の稼働日数は二一七日であり、日給は一、五〇〇円であつたから年間の収入は金三二五、五〇〇円である。

(2) 農業収入

原告は、田約四・五反(米、麦の二毛作)と畑約四反(野菜)を妻および長男(当時一八才)とで耕作していたが、これによつて得られる年間純益は約五〇五、〇〇〇円であるところ、原告の寄与率は控え目にみても五〇%を下らないから、原告分の利益は金二五二、五〇〇円である。

(3) 養鶏収入

原告は本件事故に遭うまでは妻と共に鶏四〇〇羽を飼育し、鶏肉卵を卸売りしていたところ、本件受傷後は全面的にこれを廃業することお余儀なくされたが、右の年間純益は約金三四〇、〇〇〇円であり原告の寄与率を控え目にみても五〇%としても原告の逸失利益は金一七〇、〇〇〇円である。

(4) 逸失利益額の算定

原告の本件被害直前の年間利益額は前記(1)(2)(3)を合算した計金七四八、〇〇〇円であるところ、これに前記の本件事故以降の稼働年数を一八年、労働能力喪失率を一〇〇パーセントとしてホフマン式計算法によつて原告の受傷時における一時払額を算出すると

748,000×12.6(ホフマン係数)=9,424,800円となる。

(二)  慰藉料

(1) 慰藉料算定にあたつて参酌されるべき原告側の事情は次のとおりである。

(イ) 原告は本件受傷時満四五才の身体壮健な男子であり、妻子四人を抱えた一家の中心的存在であつた。

(ロ) 原告は、農耕、養鶏そしてトタン工事人夫として精力的に稼働し家計を支えていた。

(ハ) 本件事故によつて通算二四五日に亘つて入院し、この間再三に及ぶ手術を受け、激しい苦痛、不安、不自由に堪えた。

(ニ) 前記治療にもかかわらず、原告の身体は旧に復さず、前述のような後遺症が存し、起居にはいつでも他人の介添えを必要とし、杖等がなければ歩行も叶わず、佇立も短時間しか出来ないという不自由度の極めて高い身体障害者となつた。

(2) 被告側の事情

(イ) 本件事故は、訴外丸岐組合の出荷野菜を輸送するという被告日通にとつてはいわば本来の業務遂行の過程で発生したものであるにもかかわらず、本件事故については、原告を二回程入院中見舞つたのみで損害の賠償に応じようとせず、責任は専ら共同輸送にあるかのように主張しているのは、利益追求のみ専念し企業の責任を没却しているものといわねばならない。

(ロ) 被告共同輸送はその旧商号の示すように新聞輸送が主たる業務なのであるが、本件の場合のように被告日通に自己保有車を運転手付きで傭車に応じ「新聞」でなく「野菜」を輸送したとしても輸送業務であることは明白で営業行為であることは変りがないところ、本件事故によつて被告大野が彦根市民病院入院中は、同人の見舞も兼ねて原告を見舞い、原告に対し入院治療費を負担したものの、そのほかは前後六回にわたつて計金一七、六〇〇円を養生費として支払つたのみである。

(3) 慰藉料額

以上(1)(2)を勘案するときは、原告が慰藉料として受くべき額は、最低金三、〇〇〇、〇〇〇円を下ることはあるまいと考えられる。

(三)  よつて、原告は被告らに対し前記逸失利益と慰藉料の計金一二、四二四、八〇〇円を賠償要求すべきところ、昭和四三年一〇月自動車損害賠償責任保険から後遺症補償金として金一、五〇〇、〇〇〇円(当時の最高額)を受領し、また、昭和四二年一月から同年四月までの間に被告共同輸送から計金一七、六〇〇円を受領したので、右損害金からこれらを控除した残金一〇、九〇七、二〇〇円とこれに対する本件不法行為発生の翌日である昭和四一年一〇月六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

五、(被告共同輸送および同大野の請求原因に対する答弁と主張)

(一)  答弁

請求原因第一項の事実中原告の傷害の部位程度は不知、その余の事実は認める同第二項の事実は認める。同第四項の事実中被告大野が原告に対し金一七、六〇〇円を支払つた事実は認めるがその余の事実は不知。

(二)  主張

本件事故は、大阪青果市場で大根を荷降し、その帰途発生したものであるが原告は本来国鉄を利用して帰るべきであつたのに便宜被告大野運転の自動車に同乗したもので右同乗は被告大野の全くの好意によるもので訴外丸岐組合の大根の出荷輸送とは何等関係ないものであるから右の事情は過失相殺ないし減額要素として賠償額の算定にあたり斟酌されるべきである。

六、被告日通の請求原因に対する答弁と主張

(一)  答弁

請求原因第一項の事実は不知。

同第三項の事実中、被告日通岐阜支店が訴外丸岐組合の要請により同組合が大阪中央青果市場に出荷する大根を昭和四一年一〇月四日夜、被告日通所属のトラツク一台と臨時に輸送を委託した被告共同輸送のトラツク一台とで輸送したことは認めるが被告日通の責任については争う。同第四項の事実は不知。

(二)  主張

(一) 被告日通は、被告共同輸送の車を運転者つきで傭車したのではないので、本件加害車を指揮監督する関係などはなく従つて運行供用者にも使用者にも該当しないものである。すなわち被告日通と訴外丸岐組合との間の出荷大根輸送契約は岐阜市正木地区、鷺山地区の二ケ所の集荷所から大阪中央青果市場まで片道輸送することであつたが、昭和四一年一〇月四日正木地区から出荷する三・五屯車相当の大根輸送を依頼され偶々、被告日通には三・五屯車がなかつたため、業界の慣行により(依頼主の指定した車両がない場合に同業者に電話照会し空車があれば臨時に委託することは運送業界の慣行である。)被告共同輸送に照会したところ、三・五屯車があつたので同社に臨時に岐阜市正木地区集荷場から大阪中央青果市場までの片道輸送を委託し輸送料を支払つたのであり、被告共同輸送の自動車を傭車したものではなく、また被告大野を雇傭したものではない。従つて被告大野を直接、間接に指揮監督する関係はなかつた。しかも本件事故は委託された大根輸送が終つた後その帰途において発生したもので被告日通の業務とは関係がないのみならず、前記出荷大根輸送契約には生産者の代表が同乗して行くこととその同乗者を自宅まで送り届けることは含まれていない。

(二) 仮りに、被告日通に責任があるとしても原告が、翌日の他家の葬儀参列と大根の出荷準備を急ぐため、早朝の急行列車で帰る慣わしを無視し、新聞の配達の関係で帰りを急ぐ被告大野の車に便乗して被告大野に仮眠などの休息をとらせる配慮をなにもしないまま、無暴にも深夜帰途に就いたことも本件事故発生の要因となつている。従つて右の事情から原告の損害額を算定するに際しては、相当の過失相殺がなされるべきである。

(証拠)〔略〕

理由

一、(事故の発生)

請求原因第一項の事実は、〔証拠略〕により認められる(但し、原告と被告共同輸送、同大野との間では原告の傷害の部位程度をのぞいて当事者間に争いがない。)

二、(被告共同輸送、同大野の責任)

請求原因第二項のうち、右被告両名の責任原因に関しては当事者間に争いがないから、被告共同輸送は本件加害車の運行供用者として自賠法三条により、被告大野は不法行為者として民法七〇九条により連帯して後記損害を賠償する義務がある。

三、(被告日通の責任)

〔証拠略〕からすると、

1  訴外丸岐組合は、昭和四三年四月三〇日解散されるまで岐阜市内の鷺山、則武、島の各地区の農民約一〇〇〇名位を組合員とし、青果物の計画出荷等を目的とする事業を営んでいた協同組合で昭和三七、八年頃から被告日通岐阜自動車事務所に、同組合が主として大阪中央青果市場へ出荷する大根の運搬を請負わせていたこと、

2  大根の運搬は一年のうち四月から六月までと九月二〇日頃から一〇月末頃までであつて、出荷量に応じて八屯、六屯、四屯、三・五屯の四種類のトラツクを用い、最盛期には日曜、祭日を除いて毎日一台ないし三台分ずつ出荷していたこと、

3  出荷する際の具体的計画は、訴外丸岐組合と市場の代表者とが決定し、出荷数量がきまると、訴外丸岐組合は被告日通に連絡し同被告は出荷量に応じ車を手配するのであるが、同被告に適当な車がないときは、その都度一〇社位ある岐阜市内の運送業者のなかの一社に車種、運送品目などを告げて運搬を依頼することがあつたこと、

4  本件事故当日も鷺山地区から出荷する分については八トン車を手配できたが、正木地区から出荷する分については大根の数に相応する三・五トン車が偶々被告日通にはなかつたので被告共同輸送に電話で運搬を依頼したこと、

5  被告共同輸送は事故当時の商号を「新聞共同輸送株式会社」と称し、岐阜県内の新聞販売店に新聞や週刊誌の輸送を主たる営業目的とする小型トラツク一二台程を有していた運送会社であつて被告日通から時々こうした依頼を受ける一社であつたが、被告日通とそれ以上の特別な契約関係はなかつたこと、

6  本件事故の前日も被告大野は早朝に新聞を、午前九時頃からは週刊誌をそれぞれ配達し、一応それで一日の仕事は終つたので平常であればそのまま帰宅するところを、被告共同輸送から大根の運搬を命ぜられこれに応じたものであること、

7  被告大野は正木地区を午後五時半頃出発し、午後九時頃大阪中央青果市場へ到着し荷を降した後、直ちに午後一一時四五分頃、同所を出発し前記一で認定した本件事故に遭遇したのであるが、同人が被告共同輸送の勤務を終えてからのひき続いての運搬業務であるにもかかわらず仮眠休憩等をすることなく帰途についたのは翌朝(本件事故当日の)の新聞の配達の様子を確かめ、場合によつては自から行なうためであつたこと、

8  本件加害車の車体には「株式会社新聞共同」なる文字が表示されていたこと、以上の事実が認められ右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定事実によると、被告共同輸送は被告日通とは独立した運送会社であつて、その業務内容においても被告日通に従属したものではなく、従つて訴外丸岐組合の大根の輸送も被告日通が被告共同輸送に下請けさせたものというべきで、原告が主張する車両と運転者を雇傭するいわゆる傭車とは認められない。しかして右下請に際し被告日通が被告共同輸送に対し車種、運送品目、時刻、場所等の指示をしたとしても、元請契約の内容を告げる当然の行為であつて、これをもつて本件運送が被告日通の指揮、監督のもとに行われたものということはできない。従つて被告日通は本件加害車に対し運行支配があつたものとは認められず、また被告大野と被告日通との間に雇傭関係あるいは指揮、監督関係があつたものとは認められない。すると被告日通は原告の本件事故による損害について賠償義務はないものというべきである。

四、(損害の数額)

(一)  逸失利益

(1)  原告は本件事故により前記認定の傷害を受けたものであるところ、〔証拠略〕によると原告は右傷害のため左足は膝上一〇センチで切断し、右足は膝関節運動障害により約一七〇度に伸展したままで殆んど硬直し歩行が著しく困難な後遺症を残し右障害の程度は労働者災害補償保険一級に該当すると判定され労働能力を全く喪失するに至つたものであることが認められる。

(2)  〔証拠略〕によると、原告は田畑の耕作、養鶏、日雇人夫として得た賃金によつて生計を営んでいたが、前記後遺症のため日雇人夫として稼働出来なくなつたのは勿論のこと、養鶏業を営むことも不可能となつてこれを廃業したこと、田畑の耕作は妻、長男によつて継続されているが裏作は廃業せざるをえなかつたことが認められる。

(イ) 農業および養鶏の利益

〔証拠略〕によると、本件事故前原告は同人が中心となり妻、長男の助力を得て田四反半(うち二反は二毛作)畑四反に米麦、野菜を栽培し、年間費用を除いた純益として五〇〇、〇〇〇円を得るとともに妻と協力して約四〇〇羽の鶏を飼育し、鶏卵を市場へ出荷し費用を除いた純益で三〇〇、〇〇〇円の収入をあげていたことが認められる。しかして、右収入に対する原告の労働の寄与率は、右認定の長男、妻が協力していたこと、証人森瀬繁一の証言により認められる原告の耕作面積は岐阜市内の農家としては中程度であるが専業農家として生計を維持してゆけるほどの規模ではないこと、後記認定のとおり原告も農繁期を除いて一ケ月に二〇日前後トタン職人として稼働していたことなどを考慮すると五割とみなすのが相当である。

(ロ) 日雇による利益

〔証拠略〕によると、原告は昭和四〇年四月頃から農業のかたわら建築板金業を営む訴外安田仁一方で稼働し、本件事故一年前の昭和四〇年一〇月から同四一年九月までの間に二一七日間働き一日一五〇〇円の賃金で合計金三二五、五〇〇円の収入を得ていたことが認められ右認定に反する証拠はない。

(3)  〔証拠略〕によると本件事故当時原告は大正一〇年五月一七日生れの健康な男子であつたことが認められ、第一一回生命表によると満四五才の男子の平均余命は三〇、三九才であるから、本件事故後なお少くとも一五年間は原告の受傷前の業務に従事し前認定程度の収入を得たであろうと推認できる。

すると原告は本件事故により年間七二五、五〇〇円の利益を一五年間にわたり失つたものというべく、傷害の場合これから生活費を控除すべきでない。

この利益総額からホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して事故当時の現価に引直すと七、九六五、九九〇円となる。

(二)  過失相殺

前記認定のとおり、被告大野は大根出荷運送によりかなり疲労していると思われるのに、帰途にあたり仮眠もとらないで荷降し作業に引き続いて深夜運転にあたつたもので、このような状態では眠気のため事故が発生する危険のあることが予想しうるのにかゝわらず、原告はあえて同乗したものであるから、かゝる事情は損害額の算定につき斟酌すべきものと思料する。そしてこれを斟酌すると原告の右損害額は七、二〇〇、〇〇〇円とするのが相当である。

五、慰藉料

〔証拠略〕によると本件事故直後から翌年の四二年五月頃までの約七ケ月間もの長期にわたつて彦根市民病院に入院を余儀なくされたこと、その後も岐阜市民病院に数度入院し治療を受けたにもかかわらず、前記認定の後遺症のため日常生活の立居が著しく不便で入浴、用便に至るまで家族の介添えを必要としていることが認められ、そのため原告が精神的苦痛を被つていることは明らかである。しかして、前記認定のとおり本件事故は大根運送の帰途発生したものであるところ、訴外丸岐組合と被告日通との運送契約は大根の出荷場所より出荷先である大阪中央青果市場までの大根運送であつて、原告など丸岐組合の組合員の同乗は運送契約の内容となつていないのみならず、その帰路は運送契約の目的を達した後であつて自動車の運行は契約外のものというべく、原告は早朝の急行列車に乗車すべきを前記認定の事情のため帰りを急ぐ本件加害車に同乗したもので、いわゆる好意同乗と目されるものである。右の事情は本件事故による慰藉料を算定するにあたり斟酌すべきものと考える。

以上の事実に本件事故の態様すでに認定した事実等諸般の事情(前記過失相殺の事情も含む。)を考慮すると慰藉料の額としては二、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

六、よつて以上を合計すると原告が本件事故によりこうむつた損害額は金九、二〇〇、〇〇〇円となるところ、原告が自動車損害賠償保障法に基づき本件負傷の後遺症に対する保険金として金一、五〇〇、〇〇〇円および被告大野から一七、六〇〇円を受領していることについては当事者間に争いがないからこれを差し引くと、被告共同輸送および被告大野に請求し得る損害金は七、六八二、四〇〇円となるので、原告の本訴請求は、被告共同輸送、同大野に対し右金員およびこれに対する損害発生日の翌日である昭和四一年一〇月六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるのでこれを認容し、その余の請求は失当としてこれを棄却し、被告日通に対する請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項、仮執行の宣言について同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石川正夫 宮地英雄 畔柳正義)

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